小倉百人一首⑤
86.なげけとて月やは物を思はするかこち顔(がお、がほ)なるわが涙かな(西行法師)
◇なげけとて=(月が私に)嘆けといって。 ◇月やは物を思はする=月がもの思いをさせるのであろうか。いや、そうではない。反語。 ◇かこち顔なる=月のせいではないのに、月にかこつけるようすの。「かこつ」は他人のせいにするの意。「顔(がほ)」はそのようなようすであることを表す。
▼出典:千載(せんざい)集・巻十五・恋五(九二六) 「月前恋(つきぜんのこい)」といへる心をよめる
※思い嘆けといって、月が私に恋の物思いをさせるのであろうか、いや決してそうではない。月はただ無心に照り輝いているだけなのに、あたかも月のせいでもあるかのように、恋の切なさにとめどなくこぼれ落ちる涙であることよ。
5.奥山に紅葉(もみじ)ふみわけ鳴く鹿の声聞くときぞ秋はかなしき(猿丸大夫・さるまるだゆう)
◇奥山=人里離れた奥深い山。端山(はやま)・外山(とやま)の対語。 ◇紅葉=色づいた草木の葉、ここではその落ち葉。黄葉(もみじ)も同意。 ◇秋は=四季の中で特に秋は。
▼出典:古今集・巻四・秋上(二一五) 是貞(これさだ)のみこの家の歌合(うたあわせ)の歌・読人しらず
※人里離れた奥深い山で、一面に散りしいた紅葉をふみ分けて鳴く鹿の声を聞くとき、秋はひとしお悲しく身にしみることだ。
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